あの人がびっくりする宅配ケーキ

「あんた、どうしたんコレ!」

慌てたような、でも少し嬉しそうな声が電話の向こうから聞こえる。

「誕生日おめでとう。」
私は落ち着いて答えた。

「いくつになったん?」

たしか、今年で65だ。

「秘密やわ、そんなもん!」

おっと、これは実の母とは言え、レディには
失礼だった。

「それな、あんまり甘くない、
大人が食べてもイケるやつやから。」

「そんなんええのにー。
がっはっはっはっ」

「嫁さんと仲良くやっとるか?」

私は親もとの大阪を離れ、
妻と関東に住んでいる。

実家に帰るのはせいぜい、年に一回。親不孝ものだ。子供はまだいない。

「うん、仲良くしてるよ。」

ウソだ。妻とはちょくちょく喧嘩してる。
ついさっきもやらかして妻は台所に籠城中だ。

「ほうか、ほんならええねん。」

どこの家の母もそうなのだろうか?

母はいつでも、自分のことなんか二の次で、私のことばかり。

私はと言えば、忙しさのせいにして還暦祝いさえしなかった。

「あんたが、こんな気の効いたことするやなんてなー。
たいしたもんやわ。」

いやいや、俺もうおっさんだし。
子供扱いしないでくれ。

その後、父とも少し話して、電話を切った。

母に送ったのは、誕生日ケーキ。

私は、この年になるまで、母にケーキを買ってあげることさえしなかったのだ。

母に感謝。
父にも感謝。

大人になるまで、いや、大人になってからも、いろいろ本当にありがとうございます。

少しでも感謝の気持ちが伝わっただろうか。

けど、贈ったケーキの味見が出来ないのは残念。
私は、メタボ気味の自分の腹をつまんで、ケーキでも食べに行こうか、と妻に声をかけた。




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